私が捨てたもの

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私が捨てたもの

 元夫は出勤時にゴミを持たせると集積所まで持って行ってくれたけど。  協力的ではなく、文句ばかり言っていた。  各部屋のゴミ箱からゴミを回収するのは私の仕事。  自分が使って出たゴミはそのままテーブルに置きっぱなし。  ゴミはゴミ箱へ、と小学生でも当たり前なことを注意すると 「それはお前の仕事だろう」  と、ゴミ箱に捨てることすらしない。  そのくせ、ゴミ捨て以外のことは一切していないのに 「俺は家事に協力している」  と豪語していた。  そんな状態だから。  夫婦関係はとっくに冷めていた。  もっともそれは。 『原因』ではなく。 『きっかけ』のひとつに過ぎなかったけれど。  直接の原因は『価値観のズレ』。  不妊治療してでも子供を授かりたかった私と。 『子供がいるとお金がかかる。それなら自分の好きなことに使いたい』という元夫--。  何度話し合ってもその溝は埋まらなかった。  そして。  感じた違和感。  元夫は『私達』夫婦の将来を、『二人で話し合って』決めるのではなく、彼が『別の誰か』と話して勝手に決めて、それを私に押し付けた。  それでは夫婦の意味がない。  何度も話し合おうとしたが。  お互いに自分の意見を主張するだけ。  話はいつも平行線で交わることがなく。  同じ日本語を話しているのに、別の国の言葉を話しているかのような感覚に、疲れてしまった。  そしてあの日--。  私は一枚の紙を彼に渡した。  私の記名、押印をした、緑色のラインの入った紙。  それを渡して。  私は家を出た。  あの日--。  私が捨てたもの。  それは--。  元夫と暮らした日々。
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