一章の一

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「あれのどこがサルなんだよ、どう見てもねこだろうが」 「サルです」  卓の上で丸くなっていたハーシャッドが、静かにそう言った。ハーシャッドもフクロウザルで、立花のこの家に住みついていた。  早門が、ねこ、と呟くと、ハーシャッドは聞こえるか聞こえないかの声で、サル、と返す。  とは言っても、ハーシャッドは胴と尾が長く、滑空用の飛膜を備えたねこにしか見えない。鳴き声もねこのそれである。ゆえに、額の目を持たない人間にとっては、時々飛ぶ頭のよさそうなねこにしか見えない。  そして、額の目を持つ者には喋るというのがそこへ加えられる。  鳴き声を理解できるのである。それは、本当に言葉を発しているように感じられるのであった。  人体へ若がえりの注射を打ち、新しい人格を生じさせた結果がこれである。  意味のない額の目。そして、ねこの言葉を理解できるようになった。しかも、ねこは自分たちのことをフクロウザルだと主張してくる。いや、それはどうでもいい。  二人は、これからどういうことが起きるのか、考えを出し合っていたのだった。  それなりに、暑い六月の昼過ぎだった。  場所は蝿縄(はえなわ)市。約二百万人が住んでいる。皆、貧しかった。要はスラムである。     
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