一章の一

3/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 白海(はくかい)に浮かぶ四つの島。国名は会墨(あいずみ)。その最北の、試北(しほく)。五つある県のうちの一つの高泉(こうせん)県。その真ん中に蝿縄市はあった。会墨の左上がランダルという国。右上がクイング。下は右からトリナギ、ヌマーズ、プルメント。  二つの大陸にはさまれた、よくある小さな島国だった。  会墨四島のうち、中央にある最も大きな島は大中州(おおなかす)と呼ばれる。その南東に橙鉄東島(とうてつとうじま)があり、そのすぐ南には南ヶ(なんかしょ)と呼ばれる小島があった。首都は大中州最北の中道(なかみち)県となっている。  立花がこの国へやってきたのは、今から約五年前の西暦二千百五十年だった。  立花は逃げた。  二つ、国を越えた。  逃げて、逃げて、逃げ落ちた。  俺が、いや、この体の持ち主が死んで俺という人間になったのは、二十歳の時だった。つまり十年ほど前ということになる。それから五年生きて、逃げ出した。切れのいい数字だ。正直、よく五年も我慢したなと思う。だが、逃げよう、と確かに思ったのは三年ぐらい生きてからだった気もする。  父、母、そして妹がいた。俺のではなく、この体の持ち主の家族だった。俺はクレックという名前だった。そういう記憶を持っていた。そう。記憶だけだったのだ。  俺は施設で集団生活をしていた。  集団生活と言っても、俺の場合は夜、施設の部屋に戻り、眠るだけだった。部屋は個室だった。仕事はなんと教師だった。     
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!