一章の一

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 そして、もう嘘だとわかっているが、前の人格のクレックの家族はどうなったかも聞かされた。クレックが国に対する反逆を起こそうとしたため投獄され、人体実験に使用され、全員死んだ。俺はそう思っていた。だが、それは奴らが俺に後から植え付けた記憶だった。他にもそういうことをされた奴がいたのだ。  それが早門だった。まさか、元の人格がそのまま消えずに残っていたとは考えなかったらしい。早門はいわゆるテロリストだった。その早門に新しい人格を植え付け、さらに過去の記憶として、強盗と殺人で捕まった、という物語を延々と聞かせた。それで改心した有性人種が生まれるはずだった。しかし、早門は早門のままでしばらく様子を見てから、楽々と国を抜け出したのだった。早門という名は会墨に来てから使い始めたらしく、本当の名はハリー・ゲイトという。肌は白っぽく、毛の色は薄い茶色だった。  そんなことがあり、早門はただ一つだけ額に目を増やし、早門のままで逃亡したのだという。  額の目は、今もなぜ生じるのか不明だった。また、若がえりの注射を打たれると、体の全てが一、二歳分若くなり、それ以降は齢をとらなくなる。あの時から、俺は忘れないようにちゃんと数えていた。齢についてだけは、あいつらが俺に教え込んだ二十歳というのを使うことにしていた。切れがいいからだ。     
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