一章の一

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 連中は、そもそも俺が逃げ出すなんてまったく考えていなかった。何から逃げるのか。どこへ逃げるのか。なぜ逃げるのか。全部、わかっていなかったと思う。だから、いなくなったと考えたはずだ。リサイクルした有性人種の教師が、レジームチェンジを行った患者が、いなくなった、と。  四十五年、何も起きなかった。  新しい人格は善良。皆がそう思っていた。知能を持ったロボットよりも安全だ、などと言われてすらいた。だから、あいつらも俺が逃げたなんて考えていない。事件に巻き込まれたぐらいにしか考えていない。  山に入ったら死ぬ。そう思った。だから、東へ一度大きく移動し、貨物列車に飛び乗ろうと考えた。  二回、下調べをして、金網が切れて開くようになっている場所を見つけていた。以前来た時は夏だった。抜け穴は一つでなく、間隔を開けていくつもあった。自分と同じようなことをしている人間が多くいたのだ。彼らの場合は金を払わずに他の国へ行ったり、逆に入ってくるためにそれをやる。手引きしている連中もいたから、数はかなりのものだったと思う。住んでいた場所からは遠かったため、実態は知らなかった。  俺は目印の建物の近くで、穴を探した。駅からは少し離れていた。そして、金網は雪に埋もれていた。雪を台にして乗り越えられるほどではなかった。ただ穴を見つけにくくさせるだけだった。     
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