一章の一

9/11
前へ
/103ページ
次へ
 通りすぎていくが、確かに近づいていく。もう、ほとんど並走するような感じになっていた。そして、寒すぎて息が苦しくなっていた。  一回で飛び乗る。失敗すれば、最悪、ひかれる。酒を飲んでいる時、バーで聞いたことがあった。その通りだった。コンテナには、掴まれる部分がない。少しえぐれた連結部分に足を出して乗るしかない。登るためのはしごはわざと内側に寄せて作られている。俺は速度を上げ、そのはしごに手を伸ばした。初めてだった。  青白い月の光の下は、距離感があいまいになる。しっかりと掴んだ。体が持っていかれる。俺は飛んだ。すき間に足から飛び込んだ。  今ならもっと楽にやれる。無賃乗車に向くものと、向かないものがあると知っているからだ。新しい型は乗りづらい。はしごが内側にあるから。あの時は知らなかったんだ。  冬にやるものでもない。風が冷たすぎるからだ。でも、あの時は楽しかった。興奮して胸がふるえた。  俺がそういう人間だったのか。それとも、前の人間がそういう人間だったのか。両方なのか。  俺はそうだと思っている。俺たちは、相性がよかったのだ、と。  自称フクロウザルというわけではなかった。本人たちもそう言っているが、一応はサルの仲間であることはわかっている。しかし、人間からすれば、やはりねこの仲間に思える。     
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加