一章の一

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一章の一

一章  一  女みたいな名前だった。  男は三十歳。姓は(くれ)。名は立花(りゅうか)という。  毛色は黒に近い茶で、肌はまさに黄色人種のそれである。額の目さえなければ、周りの人間と変わらない。  第三の目とか悲眼(ひがん)とか呼び名は色々あるが、何も見えないので、そもそも目なのかどうかもあやしいという人もいる。  立花だけでなく、額に目を持つ者は、大抵うすい布を額に巻き、その目を閉じ、そして隠して生活している。 「や、め、れ。や、め、れ」  見ると窓のところに、フクロウザルがいた。いつでも逃げられるように、前足と顔だけを建物の中へ入れている。 「や、め、れ」 「うるせえ、ねこ。わかってんだよ、そんなことは」  一人掛けのソファに体を沈めていた早門(はやかど)が、大きな声を出した。そして、そばに置いてあったひまわりの種をてきとうに掴み、窓の方へ投げつけた。素早くフクロウザルは顔を引っ込め、それをかわす。 「ありがっと。ありがっと。ひまわり、ひまわり、ありがっと」  無表情のままそう言うと、フクロウザルは外に散ったひまわりの種の方へ飛んでいった。 「まあ、サルに当たるなよ、早門」     
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