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お互い社会人になって、妹と離れて暮らしはじめてもう五年が経つ。  自分の意見は決して曲げない妹だったのに、五年間の間に真理恵も色々と成長したんだろうか。 「おやすみ」  私は妹がしっかり肩まで掛け布団を被ったことを確かめてから、電気を小さくした。 「あっ、真っ暗にしてもいいよ」  私は真っ暗の方がよく眠れる派だけど、真理恵はそうじゃなかったはずだ。 「なんで? ちょっと明かりを残しておかないと、眠れなかったじゃない」 「昔の話でしょ、それは」  そうか、昔の話か。   小さい頃は、真っ暗にすると恐怖で泣いて叫んで大変だったのに。そのたびに、私や母が手を繋いだものだったのに。 「お姉ちゃんの頭の中じゃ、アタシはまだ小さいままなんだね」 「そんなつもりじゃないけど……」 「いいよ。とにかく、おやすみ」  妹の望み通り、弱めていた電気を全て切った。  私の部屋にいつもの暗闇が訪れる。  妹が私に背を向けたのが、布切れの音で分かった。 「……おやすみ」  返す言葉はなかった。  もう寝てしまったのだろうか。寝付きはそんなに良くなかったはずだけど。 「………」  いつもの布団、いつもの枕、いつもの天井。  いつもと違うのは、隣に妹がいるということだけ。  たった一人の肉親だけれど、私は妹のことが苦手だ。  こんなふうに思ってしまうこと自体間違っているのかもしれない。  家族なのだから、姉妹なのだから、血が繋がっているのだからと色々理由を並べてみるけれど、やっぱり苦手なものは苦手なのだ。  今だって、妹が私の部屋にいるという事実にほんのり緊張すらしている。  妹は、私と違いすぎる。なにもかも。まるで鏡写しのように正反対だ。  明るくて活発で可愛い妹は、いつも皆に愛されていた。  私も努力はしてみたけれど、何をやっても妹以上にはなれなかった。  学校の成績も、運動の成果も、化粧の上手さや人付き合いまで。  どんなに頑張っても、妹は易々と私を飛び越えてしまうのだ。  私はいつでも、妹のことが羨ましかった。  離れて暮らすようになってからは、会う度に差を見せつけられるような気がして無意識に避けてしまっていた。  こうして、私の家に泊まりにくるのはお彼岸の時期だけ。
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