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「じゃあ、おつかれさま」  こういう時は、下手に話さない方が吉だ。  お墓参りの後は妹だってさっさと自分の家に戻っているのだし、今日もそうなると思っていた。 「……あのっ!!」 「………」 「お姉ちゃん、ちょっとだけ……時間ある?」  本音を言うと、私はこの時妹の前から早く立ち去りたかった。  私の劣等心を刺激するばかりの妹から。でも、それは許してくれないらしい。 「……少しなら」  正面切って誘われてしまったら、断れない。  だって、苦手意識はあるけれど真理恵はれっきとした私の妹なのだから。 「じ、じゃあ、いつもの喫茶店に行こ! アタシが奢ってあげるから!」  そこは、お墓参りの後に二人でよく行く喫茶店だった。  長年知っているマスターに会釈をして、アイスコーヒーを二つ注文したところで妹が言った。 「お姉ちゃん、ごめんね」 「えっ?」  珍しい。  妹が自分から謝るなんて。 「アタシ、お姉ちゃんがずっと羨ましかったの」  それはコッチの台詞だと思うんだけど……? 「子供の頃、いつも二人でお母さんを取り合っていたじゃない?」 「そうね」 「アタシはお姉ちゃんと違って良い子じゃなかったから、いつもお母さんに迷惑ばかりかけてたよね」 「その迷惑も、母さんは嬉しそうだったけど」 「そんなわけないじゃん。お母さんと二人で話していても、いっつも最後はお姉ちゃんの話になるんだから」 「私の……?」 「そう。百合恵を見習いなさいとか、なんとか」  知らなかった。  私のいないところで、私のことを話す人がいるなんて。 「アタシはずっと、お姉ちゃんになりたかったよ」 「私は……」  私はずっと、真理恵になりたかった、という台詞が喉元まで出掛かったけれども姉としてのプライドでなんとか押し戻した。 「一番羨ましかったのはね……」  そこでアイスコーヒーが運ばれてくる。  真理恵はストローの一息で半分まで飲んでしまった。 「お姉ちゃんの髪を、お母さんが結んでいた時なんだ」 「髪を?」 「あの時間、すっごく良いなぁって思ってた」 「それなら、真理恵も髪をのばせば良かったじゃない」 「アタシは無理だよぉ。お姉ちゃんみたいにまっすぐの髪の毛じゃないもん」
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