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確かに、真理恵の髪は量も少ないし癖っ毛だ。ワックスでセットしないとまとまらないらしい。だから、それを誤魔化すために昔からヘアセットに余念がなかった。
「アタシたち、顔以外は似てないよね~」
「そうね」
「離れて暮らしていてもさぁ、ことあるごとにお姉ちゃんとお母さんが、登校前に洗面所で楽しそうにしていた姿を思い出しちゃうんだよ。昔のことなのにね。おかしいよね。もうアタシたち大人なのに。でも、思い出しちゃうのはしょうがないから、ここ数年はお姉ちゃんの長い髪を見るのがちょっと嫌だった。自分が、ダメな子だって言われているような気がして」
「………」
「でも、相手に変わってもらおうと思っちゃダメだね。まずは、自分が変わらないと」
なるほど。
だから、今回は私の髪について口を出してきたのか。
普段は基本的にお互いのやることには干渉しないから、おかしいと思った。
姉妹は距離が近すぎる。
特に私たちは顔も全く同じなのだから、それはいつしか暗黙の了解になっていた。
「昔ね、アタシが眠るときに真っ暗だと怖いって言ってたでしょ?」
「そうね」
「アレ、嘘なの。本当はどっちでもいいんだぁ。でもそう言っておくと、お母さんちょっと側にいてくれたから。お母さんがいなくなって、もうそんな嘘をつく必要なくなったのにね。止められなかったんだ」
「じゃあ……どうして? なんで、今になって嘘を止めようと思ったの?」
「ん? なんでだろうね……」
真理恵は視線を右斜め後ろに逃がす。
私は知っている。これは、言いたいことが決まっている時の仕草だ。
ただ言いにくいから、言葉を区切っただけ。
もう一度「どうして?」と先を促すとあっさり口を割った。
「アタシ、お母さんになりたいの」
「えっ」
「あっ、別にまだそーゆー話が出てる訳じゃないんだけどね。でも、このままだと近いうちにそうなるかな~みたいな」
「だから、昨日気になる人のことなんて聞いたのね」
「お姉ちゃんが先に話してくれれば話しやすいな~って思ったんだけど」
照れくさそうに笑う妹は結構惚れっぽい性格だから、今まで幾度となく恋人の話は聞いていた。
でも、そこまで考えてる人がいるなんて知らなかったな……。
「それでね、最近よくお母さんのことを考えるんだぁ。お母さんのことを考えると、自然とお姉ちゃんとのことを思い出すの」
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