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「私?」 「そう。記憶の中のアタシはいつも人の顔色をうかがっていて、お姉ちゃんやお母さんの邪魔ばかりしていてなぁって」 「そんなこと……」  ないんじゃない?とは言えなかった。  私とは正反対の妹だけれど、そうやって一人で袋小路にはまってグルグル考えてしまうところはまさしく私とそっくりだったから。 「でもアタシはもうお母さんの真理恵じゃなくて、アタシの真理恵として、これからは生きていきたいんだよ」 「………」 「ねぇ、百合恵」  真理恵が私を名前で呼ぶなんて珍しい。  妹という立場の方が甘やかしてもらえるから好きだと言って、外でも中でも滅多に私のことを名前では呼ばないのに。 「アタシ、たぶん、きっと、ずっと、百合恵のことが苦手で羨ましくって、だけど嫌いにはなれないんだと思う」  それは私の台詞だ。  本当に、双子は嫌なところばかりが似てしまうから困る。  似てほしいところは、似ないのにね。 「アタシ、百合恵の長い髪、好きだよ」  そうやって私に屈託なく笑いかけるところとか、常に前を向いて歩けるところとか、妹のそういうところが、私はずっと欲しかった。 「……今度、真理恵の恋人、紹介してくれる?」  私は真理恵の誉め言葉を素直に受け止めきれず、でもなんとか言葉を絞り出す。  妹はやっぱり一度だけ視線を右斜め後ろに逃がしてから、嬉しそうに鞄から手帳を取り出した。 「今週がいい? 来週がいい?」 「ちょっと、そんなに急なの?」 「だって、一番に紹介するのはお姉ちゃんにしようって決めてたもん」 「へぇ……」 「お姉ちゃんも恋人ができたら、私に一番に紹介してね」 「どうかな……真理恵は口が軽いからなぁ」 「え~? 信じてよぉ」  離れて暮らしていても、本質は変わらない。  ちょっとだけ大人びたように見えた妹は、すぐにいつもの調子に戻ってしまった。  私はその変化が、なんだか嬉しいような懐かしいような、そしてちょっぴりさみしいような感覚を覚えた。 「信じてるよ」  わざと聞こえないように小さな声で言ったのに、真理恵はしっかりとその声を拾っていて、またニンマリと笑った。
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