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午前2時過ぎ。満月が煌々と輝き、静まり返った部屋の中にネコの盛る声がときおり聞こえてくる。ハルコは何をするでもなく、椅子に座っていた。目の前には、ぼんやりと光るスタンドだけが置かれている勉強机と、教科書だけが並んでいる壁に備え付けられた本棚がある。
突然、窓ガラスの割れる音がした。驚いてハルコが左側に顔を向けると同時にカーテンが揺れ、少し風が入ってきた。カタンと鍵を開ける音がしたあとに不気味な音とともに窓が動いた。普段何気なく開け閉めしていた窓はこんなにも不気味な音だったのか。外から開けられた窓から、先ほどよりも大きな風がさあっと入ってくる。ハルコが立ち上がると同時に、カーテンの向こう側に黒い影が見えた。
―強盗だ。
ハルコはすぐにそう思い窓とは反対側にあるドアへと静かに後ずさりした。しばらくして、ドン、と背がドアに当たる。ドア1枚を隔てた向こうには廊下があり、他の部屋には寝ているであろう家族がいる。家族を起こして逃げよう。そう思って入ってくる黒い影を見つめながらドアノブを手探りで探し出した瞬間。
「森本晴子さん。」
黒い影の低い声にハルコはぴたりと動きを止めた。手はまだドアノブに辿り着けていない。ハルコはじっと黒い影を見つめた。
カーテンから入ってきたのは自分と同じ高校生か、少し上の大学生くらいの男だった。白のカッターシャツに黒のスキニー、黒基調のスニーカーと、まるで近くのコンビニにでも行くような格好をしている。
「私を、知ってるんですか?」
恐る恐るハルコは聞いてみる。男は足元に砕け散ったガラスの破片をパリンと踏むとそのまま部屋の中へと入ってきた。男はマスクをしておらず、端正で少し微笑んだ顔が、ハルコへとだんだん近づいてくる。男は背が高く、平均的な身長のハルコは必然的に男を見上げなければならない。その圧にハルコは恐れおののいた。
「ああ、よく知ってるよ。毎日登下校で君を見てたからね。君と僕は高校が近いからよく一緒に登校してたんだ。もっとも君は周りなんて気にする人じゃないから僕の事なんて気付いてもいなかっただろうけど。」
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