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言いながら男はハルコの首に手をかける。くっとハルコの喉が動いた。しかし見た目や声の低さの割に第一人称が「僕」ということやその優しげな話し方にハルコは自分の中の恐怖がすっと冷めていくのを感じた。と同時に、この男についての興味がふつふつと湧いて出てきた。男はハルコの息が止まらない程度に首を絞めてハルコの意識を奪おうとしている。
「待って。」
ハルコは男の手を掴んだ。男の手がハルコの首から離れると、ハルコは一度大きく深呼吸した。幸い酸欠にはなっていないようだ。ハルコは男を見上げた。
「あなたの目的は何ですか?強姦?」
「滅相もない!」
男はハルコの手から大げさに自分の手を逃し、まるで自分は武器を持っていないというように両手を広げてみせた。
「じゃあ何ですか?強盗?それとも殺人?放火?」
「うーん。」
男はわざとらしく天井を見上げた。そのわざとらしさにハルコは少しイラッとした。
「ちゃんと答えてください。でないと今すぐ通報しますよ。高身長、黒髪、短髪。眉は細くて鼻筋は高い。唇は少し厚くてふっくらしてる。服装は白のカッターシャツに黒のスキニーと黒のスニーカー。特徴はちゃんと覚えましたから。」
今は両手に何も持っていないがきっとどこかに何かを隠しているはずだ。ハルコは男から意識を逸らさずに男の特徴をあげていった。そんなハルコに構わず、むしろなぜか楽しそうに天井を見つめたまま口を開いた。
「そうだね、殺人・・・になるのかな。うん、そうだ。殺人だね。僕は、君を殺しに来たんだ。」
男はハルコを見下ろして目を合わせるとにっこりと微笑んだ。その微笑みに悪意や下品さなど一ミリも感じられず、むしろ漫画であればヒーローがヒロインに対してクライマックスで向けるような愛情のこもった微笑みに、ハルコの張りつめていた肩がふっと下がった。
「少し、お話ししましょうか。」
ドアから背を離し、男の脇を通り抜けてハルコは左側にあるローテーブルへと向かった。仮にも殺人予告をしてきた人物、それも男に背を向けるなんてどうかしていると自分でも思ったが、背後からは殺意など微塵も感じられなかった。
「部屋の電気は点けませんよ。左側の豆電球だけにしますね。この時間に部屋の明かりを全部付けてるとご近所さんにいろいろ言われるので。」
ローテーブルの奥にあるスタンドの明かりを点けようと窓の方へと歩いて行った。と、
「危ない!」
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