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一方、部屋に残っていた男―タニムラという―はハルコを待っている間、ハルコの部屋を観察することにした。
タニムラがハルコを初めて見かけたのは約二か月前の、梅の花が咲き始めた頃だ。タニムラはその日、いつもより十五分ほど早く登校した。なんとなく朝早く目が覚めて、なんとなく早めに準備ができたので、なんとなく早めに登校したのだ。桜の並木道が一本大きく通っている先に道が分かれて二つの高校がある。そのため大きな一本道には二種類の制服を着た少年少女たちがワラワラと道いっぱいに広がって登校している。その光景は十五分早かろうといつもと変わらない。しかし、その変わらぬ光景の中にタニムラは違うものを見つけた。それが、森本晴子である。おかっぱで黒髪を胸当たりまでの三つ編みにし、冬のセーラー服の上から真っ白なコートを着たハルコは梅の木の下にしゃがみ込んで土をいじっていた。何をしているのか詳しくは分からなかったが、ハルコの白すぎる肌と梅の紅い花のコントラスト、なによりハルコの少し周りから浮いたような佇まいや雰囲気にタニムラは一気に惹かれた。
並木道が分かれたところでタニムラは右の公立高校に、ハルコは左の私立の進学校にそれぞれの道を進んでいった。その日、タニムラは彼女の名前が森本晴子であるということ、周りを一切気にしないちょっと風変わりな、お嬢様学校の中でもトップレベルのお嬢様だということを知った。
次の日もまた次の日も、タニムラは十五分早く家を出た。ハルコを見つけるためだ。毎朝、ハルコは同じ時間に同じ場所を歩いていた。最初に見かけたときのように梅の木の下にしゃがみ込むことはなく、他の女子生徒たちのように満開になった桜の木の下で立ち止まって桜を見るわけでもなく、前だけまっすぐ見つめて歩くハルコを、ある日は追い越し際にチラリと、ある日は斜め後ろから見つめながらタニムラはハルコのことを観察し続けた。
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