Afrodisia

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「ガッ…っ」 「昨日、さ?」  隠ぴな動きにヤバイと思ってグリジオが手を引っ込めようとした瞬間にガットの手が手首を掴み、ぐいっと己の方へ引き寄せるとグリジオの耳元で吐息じみた声音で囁きだす。 「夢ん中に昔のアンタが出てきてて、…すっごい興奮した。筋肉質なアンタに腕押さえられながらアンタの石がゴリゴリきもちぃとこ当たるのすげぇよかったよ?」 「っ、…」  グリジオも思い出したのか微かに鼻孔が膨らむ。  石とは魔法を固めた石のことで、宝石のように輝きを放ち、アクセサリーや財宝になっていた。そして、精力や気力などを込めた魔法石を丸く加工し、男性器に埋め込むのが一部で流行っており、若かりしグリジオも例に漏れずその一人だった。 「でも、残念だな…もう入ってないなんて…。奥さんはそのこと、まだ知らないんだろう?」 「ぐぅっっ…」 「もっかい入れて、奥さん喜ばしてやったら?」 低く唸ったグリジオにガットはくっと喉を鳴らし、駄目押しとばかりにふっと息を耳の中に吹き掛けた。 「~~わぁ…かった、わかった。1枚まけてやるから、そのことはぜぇっったいカミさんに言うなよ?娘にもだ」 息を吹き掛けられた耳を手でバッと覆いながらもう片方の手で、グリジオが10箱めをカウンターに立てた。それを見てガットは満足そうに口許を緩めるものの追い討ちとばかりに軽口を叩く。 「俺と遊んでたことも?」 「当たり前だろ」 「性に奔放だったおっさんはどこいったんだか」 「若気の至りだ。お前もいい年になってきたんだから、そろそろ落ち着け」 「まだまだ若いんでね」 「うるせぇ、色狂いが」  ボロくなったせいで黄みの強くなった白い布袋に、適当にタバコを入れると軽く縛ってから胸元に投げつけられ、落ちそうになった品を慌ててガットはキャッチした。 「サンキュー。次も安くよろしく?」 「次は定価に決まってんだろーが。けど、変なとこで安く買うんじゃねぇぞ?偽モンは副作用すげぇんだから、今度は大金持って来いよ」 「まぁ、ちゃんと稼げてたらな」 「ちゃんと稼いどけ」  シッシッと犬を追い払うようにグリジオが手を振るも結局お節介な性格は変わらないようで、なんだかんだガットの体を心配するような言葉にガットも苦笑しながら店を出ていった。  袋を腰のベルトに引っ掻けて、路地裏を歩く。元来た道を歩きながらガットは物思いにふけていた。 (カッツェ、か…まさか口にしてたとはな…)  フィオレオの口からこの名前を聞くとはよもや思わず、朝は言葉を失っていた。もしかしたら、昔もどこかで口にしてしまっていたのではないかとガットの背筋が凍る。
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