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季節が秋から冬に変わろうとしている十一月中旬。
町の風景も秋と冬が混在し始めた。紅葉と落ち葉で彩られた公園、秋色のポップで飾られる中クリスマスケーキの予約が始まるスーパー。これらは時の流れを感じさせ、ワクワク感とちょっとした寂しさを呼び寄せる。
この時の流れは真夜中食堂も同じだった。
バイトにも慣れ、人にも少しずつだが慣れ始めた陽菜子は、今では立派に食堂の戦力となっている。時々失敗もするが、それはご愛敬といったところだろう。忙しい週末にもシフトを入れたりしているので、成長は確実にしている。
それはある日のバイト中のこと、陽菜子はここで働き始めてから初めて、あるものを目にする。
「て、定食にデザートがついている……」
今日の日替わり定食は酢鶏定食(酢豚の豚の代わりに鶏が入っている)。その横に小さな杏仁豆腐がちょこっと置かれていた。それに気づいた陽菜子は軽い衝撃を受ける。真夜中食堂はいい意味で昔からあるような味のある食堂。そこにデザートが付いているだけで、なんかもう驚きなのだ。失礼ではあるが、ちょっと似合わない。
そんな失礼なことを考えている陽菜子に津田は言う。
「ようやく出会えたな。うちはときどき定食にデザートをつけているんだ」
「え、で、でも、初めて見ましたよ」
「そりゃそうだ。気が向いたときにしか出してないからな。デザート付きはレアだ、なんて言われているぐらいだ」
「へぇ~そうだったんですね」
じっとその杏仁豆腐を見る陽菜子。そのもの欲しそうな視線に津田はクスクスおかしそうに笑う。その可愛らしい横顔、料理人からすれば最高の顔をする彼女に津田はうれしそうだった。
「食べたいなら食べていいぞ」
「えっ、いいんですか?」
「そんな顔されちゃ、ダメとは言えないな」
「えっ、わ、私、どんな顔してました?」
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