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「私の家、父子家庭なんだ。お母さんは私が十歳のころ病気で死んじゃったの。それからお父さんと二人暮らし」
「そうなんだ」
環奈は自分の家庭を、状況を何の感情も込めずに語っていく。そこに悲しさなど無く業務連絡のように無機質だ。しかしそうすることで自分を守っているように思える。自分自身が悲しくならないように、あのときの感情を思い出さないように。
「でもね、今度お父さん、再婚するみたいなの。つまり新しいお母さんが出来る」
「新しいお母さん……」
「お父さんの気持ちも分かるんだよ。私を一人で育てていくのは大変だろうし、ましてや私、女の子だし。お母さんが必要だと思うのも分かる。それにお母さんが亡くなって四年も経つから。お父さんにはお父さんの人生があるからね」
冷めたように言っている割には言葉の端端から複雑な気持ちが見て取れた。
中学二年生、微妙な年頃だ。気持ちとしては分からないことも無い。理解は出来る、でもそれと感情は別物だろう。
「でもやっぱり寂しいよね。お母さんのこと忘れるわけじゃないけど、なんだか寂しい。お父さんだって、お母さんのこと嫌いになったわけじゃない。私たちは生きているから、進んで行かなくちゃいけない」
「自分たちだけ時が進んでいっている。それは、お母さんを置いていっちゃってるように思えるね」
「うん。私もそれが言いたかった」
悔しそうに言う環奈。先ほどよりかは笑顔が増えている。しかし陽菜子はここで一番気になっていることを尋ねた。彼女の機嫌がまた悪くなることを覚悟で。
「その……新しいお母さんと上手くいってないの?」
陽菜子のこの質問に環奈は複雑そうに顔をしかめた。しばらく悩んだ末、こう答える。
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