二食目 二つの肉じゃが

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「新しいお母さんと会い始めたのは一年生の終わりごろから。まだ一緒には住んでないけど、夕ご飯作りに来たりしてくれてる。休日もたまに一緒に過ごしてる。それに、私に優しくしてくれるし悪い人じゃない。けど……」 「けど?」 「けど、好きとか嫌いとかそんなんじゃない。新しいお母さんっていうだけで、拒絶している感じかな。自然に壁を作っちゃってるんだと思う」 「そうかぁ」 「やっぱりなんだかんだいって受け入れられないんだと思う。だからなのかな、家にいるのがつらいの。息が詰まってくるっていうか。家の中で新しいお母さん、静香さんの空気を感じるのが、たまらくつらいんだ」 「だからこんな夜中に」 「こう言うと分かりやすいかな。家の中に異物を感じるというか。マラソン中に靴に入った小石みたいな、そんなもどかしさとイライラと」 「うん、分かりやすい例え。でもそうなると、解決法は小石を取り除くしかなくなるんだけどなぁ」  陽菜子は困った顔で環奈を見る。すると彼女もばつが悪そうに目を背けていた。  取り除いてしまうのが一番簡単なのかもしれない。しかし果たしてそれが良いのか。拒絶や排除は一番簡単で一番楽かもしれない。でもそれではいけない。これも逃げというものなんだろう。  逃げは悪いことでは決して無い。時に逃げることも大事だ。だが全てに逃げていては一歩も進めない、そう陽菜子のように。逃げても良いとき、逃げずに向き合うとき、その見極めが大事なのかもしれない。環奈の場合は、一度逃げずに向き合う方が正しいのだろう。それでダメなら仕方がない。  お互い困ったなぁという空気になっている。するとここで陽菜子がある提案をした。 「ねぇ、環奈ちゃん、お腹空いてない? いろいろ考えるとお腹空いてくるし、空いていたら考えることも出来ない。美味しいもの食べに行こうか」
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