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翌日、陽菜子は言われた通り食堂を訪れた。
店にはすでに環奈がやってきていた。津田は厨房で何か作業中、今日は栄真がフロア担当だった。長めの茶髪で和服姿、それにエプロンをしている姿はなんだか面白い。そんなことを言うと彼は絶対にへそを曲げるので言わないが……。
陽菜子はカウンターにいる環奈の横に座った。
役者はそろったとでも言うように津田は満足そうに二人を見ると、さっそく本題を切り出した。
「今日は呼び出してすまないな。腹、減ってるだろ? とりあえず、これ、食べてくれないか?」
そう言って出されたのは肉じゃがだった、しかも豚肉の。
目を見開き驚く環奈に津田はこう言う。
「いっぺんでいいから食べてくれ。マズくはないぞ、俺が作ったんだから。内海さんもどうぞ、美味いぞ」
津田はじっと環奈を見る。その有無を言わさぬ態度に、彼女も渋々といって様子だが、箸を手に取った。陽菜子もそれを見て同じように箸を取る。
陽菜子は器を覗きこんだ。いつも食べている肉じゃがと具はほぼ同じだ。違うのはお肉が豚肉だということ。
肉じゃがにおいてメインはじゃがいもなのか肉なのか。そこは意見が分かれるところだろうが、津田の肉じゃがのメインはじゃがの方かもしれない。なぜならじゃがいも丸ごとなので存在感がハンパないのだ。荷崩れしていないのはさすがプロと言ったところだろう。その黄金色に輝くじゃがいもはもはや神々しささえ感じる。
あとは人参と玉ねぎとお肉。皮と身の間に栄養があるので人参は皮つきのまま煮込まれている。玉ねぎは見るからにトロトロ半透明で、口に入れれば甘くとろけるのが見て分かる。お肉は豚肉なので牛肉とは違い白っぽい色をしている。
玉ねぎの甘い匂いと肉の香りを添えた、醤油と砂糖の甘辛い匂いが鼻孔をくすぐる。日本人が好きな匂いだ。
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