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環奈は問題のお肉を取った。そしてそれを口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼し、今度はジャガイモに手を伸ばす。箸で割ると簡単にほろっと崩れる。一口サイズに崩し食べる。環奈は一言もしゃべらず、とりあえず全ての具を食した。彼女の箸が置かれる。
「……美味しい」
ぽろっと漏れたそのひと言。それだけで充分だった。
「美味いだろ?」
「うん、悪くない。でも牛肉のやつよりさっぱりしてるね。少し物足りなさを感じるけど、これもこれでまたいいかな」
「そうだな、牛肉の方が肉のうまみが強いからな。でも美味しかったなら良い。内海さんはどうだ?」
急に感想を求められ、陽菜子は肉をのどに詰まらせそうになりながらもこう答える。
「環奈ちゃんの言う通りさっぱりしてますね。そのおかげか、野菜の味がより感じられる気がします」
すると二人の目の前にまた同じ器が出された。こっちは牛肉の肉じゃがだった。見慣れたビジュアルにどこかホッとする。
「一応こっちも作っておいたんだ。これもこれで美味しい」
「うん」
「初めて見る豚肉の肉じゃが。でも食わず嫌いは良くないな。初めてならなおさらだ。美味しいかどうかなんて食べてみなければわからない。実際に食べてみたら美味しかっただろ。それは新しいお母さんにも言えることなんじゃないか?」
「どういうこと?」
「君は最初から前野さんを拒絶している。新しいお母さんになるかもと言うだけで」
「で、でも」
「もちろんその気持ちも分かる。だけど前野さんの気持ちを考えたことがあるか? 自分だけつらいんじゃない。彼女も君の母親になれるよう努力しているんじゃないのか? 誰かの親になるということは相当な覚悟が必要だ。君の亡くなったお母さんの存在もある。同じように接することが出来るか、代わりになれるだろうか。前野さんも不安でいっぱいのはずだ。そんな彼女の気持ちを考えたことはあるか?」
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