二食目 二つの肉じゃが

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「…………」 「美味しいごはんを作るということは、食べてもらう相手を想って作るんだ。夕食、作ってくれてるんだろ? きっと前野さんは君や君のお父さんを想って作っているはずだ」 「……うん」 「拒絶も食わず嫌いも同じようなもの。まずは食べてみなければ何もわからない。そして前野さんのこともまずは知らないと何もわからない。そうだ、牛肉の肉じゃがも食べてみてくれ。冷めてしまうからな」  言われた通り環奈は牛肉の肉じゃがを食べた。こちらには、甘い肉の脂の香り、そして強いコクが加わっている。 「美味しい」 「いつものやつだからな。肉じゃがはお母さんの味だったな。前野さんの肉じゃがが食べられないのは、お母さんとの思い出が上書きされてしまうんじゃないか、そんなことも言っていたが、それは違う」 「ち、違うかな?」 「ああ。味の記憶はちょっとやそっとのことでは消えないさ。おふくろの味ならなおさらだ。お母さんの味で君は成長してきた、その味と思い出は魂にまで刻まれている」 「そうだといいな」 「これからは豚肉の肉じゃがになるかもしれない。でも二つの肉じゃが、同じように美味しく楽しい思い出になればいいな」  すると環奈は箸を手に取り肉じゃがを食べ始めた。豚肉も牛肉も、どちらもだ。津田の言葉と母の思い出を噛みしめるように、一口一口味わって。陽菜子もその様子を温かいまなざしで見守る。  二つの器は空っぽになった。満足そうに環奈は箸を置いた。 「ごちそうさまでした」  満面の笑みを浮かべる彼女に津田も笑顔を返す。そして環奈は席を立ち、陽菜子の方を向いた。
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