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「帰るね、お姉ちゃん。私、もう大丈夫だから。ちょっとずつだけど静香さんと話してみようと思う。私、彼女のこと何も知らないから」
「うん、それが良いと思う」
「それでも嫌だったら仕方がないよね」
「うん、仕方がないと思う」
「その時は嫌だって言ってもいいよね」
「言うべきだと思う」
「ありがとう、お姉ちゃん。そして食堂の皆さんもありがとうございました」
そう言って頭を下げる環奈。彼女は真面目で礼儀正しくて、そしていい子だ。ただ亡くなったお母さんが大事だった。でも父親の苦労も分かる。板挟みでいっぱいいっぱいになってしまったのだろう。新しいお母さんのことなど考える隙間も無いぐらいに。
環奈に必要だったのは真夜中の家出はなかった。彼女には一息つきゆっくりと考える時間、そして相談に乗ってくれる人だった。
環奈はこうして食堂を後にした。栄真が自宅まで送って行くことになった。
食堂を出る彼女は笑顔だった。津田の想い、店を出るときにはみんな笑顔で、それはいつも実行されている。美味しいごはんと彼の人柄がなせる技なのだろう。
しばらくして栄真が帰ってきた。
「無事送り届けたぞ」
「どうでしたか?」と不安そうにそう陽菜子が尋ねる。まだやっぱり心配なのだ。すると栄真は何か思い出したのか、クスッと笑みを浮かべる。
「帰り道、嬉しそうにスキップしてたなぁ。店に入ってきた時はこの世の終わりみたいな顔していたが、帰りは憑き物が落ちたみたいにすっきりしてたよ。あの様子なら大丈夫じゃないか」
「よかったぁ」
ホッと胸をなでおろした陽菜子は津田の方を向いた。そして彼に頭を下げる。
「津田さん、本当にありがとうございました」
「いや別に、俺は何もしてない。ただ美味い飯を作っただけさ」
「それが良かったんです」
「そ、そうか?」
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