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そう言うと津田は厨房の奥へと行ってしまった。改めてお礼を言われて恥ずかしかったのだろう。
陽菜子は改めて津田の言葉を思い出す。
食わず嫌い、それは食べ物だけに言えることでは無い。もちろん言い方は変わるだろうが、人や環境など、初めて触れるものを何も考えずに真っ先に拒絶することも同じようなものだろう。そう考えると陽菜子の人生は食わず嫌いにあふれていた。
そんな陽菜子の沈んだ表情に栄真が気付く。
「どうした、暗い顔して。せっかくあの子が明るくなったのに、なんでお前がそんな顔になるんだ?」
「食わず嫌いって、私も人生食わず嫌いだらけだったなぁって思って。私、初めての場所や人が苦手で。出来ることなら避けて通りたくて。だから友人も上手く作れなかったり、部活にも入らなかったり。チャレンジすることが恐くて出来なかったんです」
「まぁ確かに、初めてのものや得体の知れないものは怖いと思っても仕方ないな」
「だからずっと起伏の無い人生で、だから思い出も何も無いんだろうなぁって、改めて気づかされたというか、理由が分かったというか……」
最後には俯いてしまった陽菜子。栄真はそんな彼女の頭をなでる、しかも乱暴に。
「良かったなぁ、内海陽菜子。今、それに気づくことが出来て良かったじゃないか」
「えっ……?」
「だってそうだろ。気付かなければ変えることも出来ない。内海陽菜子は食わず嫌いの人生は良くないと思うんだろ。今まで送ってきた自分の人生は決して良いものじゃないと思うんだろ。だったら簡単な話だ、今から変えればいいんだから」
その言葉に急に不安そうな顔になる陽菜子。そんな彼女のほっぺたを栄真はつまみ引っ張る。
「い、いはぃ……な、なにしゅるんで……」
「辛気臭い顔するからだ。内海陽菜子、どうして今この食堂にいるんだ?」
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