二食目 二つの肉じゃが

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「そうですよね。今からでも遅くないですよね」 「遅い事など無い。でも、それも自分の行動次第だな」 「はい」  津田の言葉に力強くうなずく陽菜子。  いろんなものを避けてきた人生。きっとそれは損な人生だったんだろう。だから陽菜子の中に何も残らなかった、何も残さなかった。それを今更悔やんでも、過ぎた時間は取り戻せない。過去に戻ることなど出来ないのだから。  だけどこれからは違う。気付いたならば変えることが出来る。  何も無いのはやはり悲しい。そしてそれも己次第というならば、何か動かなければ、進まなければ。陽菜子は自分の人生を変えたい、久しぶりにそう思ったのだった。  そして、現在。  陽菜子は以前よりも意識して前を向くようになった。自信無くいつも俯いてばかりだったが、いろんなもの見ることから始めることにしたのだ。なぜなら見なければ何も気づかないままで終わってしまうから。  人を見る、景色を見る。人の喜ぶ姿、悲しむ姿、目に映るすべてのものを見なければ何も始まらない。それが何か繋がるかもしれない、何かに気付かせてくれるかもしれないから。小さな事だと思うだろうが、急に変えることはやはり恐ろしく難しい。だからちょっとずつ。そのちょっとを積み重ねていく。  今、その陽菜子の目は一つのテーブルに向いていた。そのテーブルにいたのは環奈と、新しい母親となるかもしれない前野静香の二人だった。二人は今、向かい合わせで楽しそうに談笑していた。その話声がこちらにまで聞こえてくる。 「こんなところに食堂があったなんて。しかもこんな時間に開けているのはすごいわね」 「そうでしょ。ごはんもとっても美味しいんだから」 「へぇ~楽しみ。だけど太っちゃいそうね」 「いいんだよ、こういう時くらい」  二人の笑い声が聞こえる。とても楽しそうで良かった。  常連のけいさんも陽菜子の視線をたどり、その母娘に目を向ける。
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