三食目 愛を込めてぜいたく煮

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        1  陽菜子は家の台所に立っていた。  何か料理を作っているようで、コンロには火にかけられた鍋が一つあった。  その鍋では大根、いや、大根は大根でも生とは違う何かが茹でられている。湯の中でグツグツと、その大根らしきものが上へ下へと舞い踊っていた。  陽菜子はそれをじっと見ながらあることを思い出していた。  それは今から二週間前の出来事だ。 ※   ※   ※  休日のお昼まえ、陽菜子はこんな時間帯にもかかわらず、いまだベッドの中でぬくぬくしていた。  季節は十月下旬、朝の気温が下がり始める頃。こういう時のお布団はなかなか離れがたい。出るのもおっくうになり、このまま二度寝などざらにあることだろう。陽菜子はほぼ引きこもりのニート生活、それが可能なのだからよろしくない。  引きこもりとはいえ、規則正しい生活をしなければならないのだが、彼女の場合真夜中の散歩のせいで守られることは少ない。そして今は真夜中食堂でのバイトがある。ますます規則正しい生活からは離れていっているのが現状だった。  カーテンの隙間から差し込む太陽の光。陽菜子の目がかすかに開かれ、また閉じるを繰り返している。こうやってまどろみ、ゴロゴロするのが至福のときだった。  しかしそんな幸せな時間が一瞬で破られることとなる。  急に陽菜子の顔にまぶしいほどの光が注がれた。何事かと目を開ける彼女。手でひさしを作りながら部屋を確認すると、窓辺に誰かが立っていた。 「いくら休みだからってこんな時間まで寝てていいわけ?」
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