三食目 愛を込めてぜいたく煮

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 真夜中の町に鍋くんの絶叫が響く。見る人が見ると誘拐にしか見えないが、食堂の面々はそれを優しい目で見送った。彼らの姿が見えなくなると三人は中に戻る。 「さぁ、うるさい奴もいなくなったことだ、仕事仕事」とかなり冷たい栄真。 「鍋くん、また来ますよね?」 「けいさんと一緒について来るんじゃないか? でも、こうやっていざいなくなると少し寂しいもんだな。料理中、話しかけられてうっとうしかったが」と津田は苦笑い。それは陽菜子も同じような気持ちだった。  鍋くんは陽菜子のご先祖様からずっと見守って来てくれた大切な鍋。もうちょっと彼から話が聞きたい。自分が生まれるまでどんな歴史があったのか。いろんなものが受け継がれていく、その流れを。  陽菜子自身その一部になれるかは分からない。だが、たくあんの煮たのに知られざる祖母の物語があったように、きっと知らない物語がまだまだたくさんあるはずだ。これを己のルーツというのは仰々しいだろうが、人は繋がっている、そして繋がっていく。そう思うことはきっと悪くないはずだ。
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