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自然と好きな歌を口ずさみながら、魔法薬をかき混ぜる。左に2回、右に3回。甘い花の蜜を加えて、もう一回──。 「何を作っているのですか?」 「きゃあ!」 突然耳元から声が聞こえ、文字通り飛び上がった。反射的に後退り顔をあげると、夫であるランベールがそこにいた。 顔色ひとつ変えず、わたくしを見下ろしている。 年下のくせに、わたくしより背が高いなんて生意気な、と思った事もあったような、無かったような。 「おや。申し訳ございません」 まったく誠意の感じられない謝罪に、わたくしは首を振りながら作業に戻る事にした。 必要以上に構っていては、きりがない。 「驚かせないでくださる?いらしたのなら声をおかけになって」 仕事用の口調で話せば、何故か楽しそうな笑みが返ってくる。 「あなたがあまりに楽しそうでしたので、しばらく眺めていました」 「次からは声をかけてくださいませね」 「ええ。……愛の妙薬ですね?」 頷いたランベールが鍋を覗きこんできたので、見やすいように少し横に移動した。 ランベールは王太子殿下の侍従であるけれど、魔術師でもあるから、これくらい分かってくれないと。 「そうですのよ」 「誰かに差しあげるためですか?それとも、自分で使う為に?」 「まさか!これは依頼があったから!」 思ったよりも大きな声が出て、自分でも驚く。 ランベールを見上げると、にっこりと笑われ、距離を詰められる。 「でしょうね。あなたはすでに、私の愛を勝ち取っているのですから」 そう言ってランベールはわたくしの髪を掬い、金髪と水色の髪のちょうど境目に、口づけをした。
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