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「……ほんと、期待してなかったけれど」 いつもならとっくに休んでいる真夜中の、真っ暗な窓の外を眺めながら言っても、たぶん説得力はない。 わたくしの仕事は、宮殿が閉じられる5時まで。それから雑用を済ませて帰っても、7時には帰りついている。 対してランベールは、殿下が就寝して、次の日の用意やらを済ませて帰ってくるから、夜遅くなるのはいつもの事。 なのだけど。 食卓の上に置かれた、いつもより少しだけ張り切った料理が、すっかり冷めてしまった。 期待していたと知られるのも癪だけれど、これを見て少し反省すればいい。出来もしない約束はしません、と。 「さて。もう着替えて寝ましょう」 ついつい独り言を言ってしまうのは、自分を紛らわせるため。寝室のある2階へ上がり、普段着のローブを脱ぎ捨てる手が雑なのは、きっと気のせい。 夜着へ着替えようと手に取る、と、ふと、背中に痛みが走った。一瞬顔をしかめ、鏡台に近寄って背中を映す。 肩から腰骨辺りまで斜めに走る大きな傷が、確かにそこにある。 この傷は、わたくしが生まれた時から持っていたもの。わたくしの、前世の記憶と一緒に。 「濃くなってるかしら。やっぱり、魔獣が増えたのは……」 「何をしているのですか。襲われますよ、私に」 唐突に聞こえた声に、反射的に振り返った。扉の側に立つその姿に、夜着を胸元で抱き締めるように持ちながら、安堵の息を吐く。 帰宅した気配も感じさせないなんて、つくづくわたくしを驚かせるのが好きらしい。
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