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「あら。お早いお帰りねぇ?」 皮肉たっぷりにわたくしが言うと、ランベールは僅かに困った顔をした。下の階の料理を目にしたのだろう。 「それについては謝ります。すみません。ただいま戻りました」 「まぁ、無事に帰ったならいいでしょう。お帰りなさい」 ランベールはわたくしの言葉に微笑み、近づいてくると、わたくしの体を反転させた。またもや驚くわたくしの背中の傷を、なぞるように撫でる。 鏡ごしに顔色を窺うと、とても優しい瞳が見えた。それがくすぐったくて、少し笑う。 「気味悪がらないわよね、最初から。前世に受けた傷なんておかしなもの」 この傷のおかげで、わたくしは親に捨てられた。覚えているのは、忌々しそうにわたくしを見てた事だけ。 それなのに、ランベールは言ってくれる。前世の記憶があるなんて話も受け入れて。 「これもあなたの一部だと思えば、愛しいですよ」 そう言って、肩口に唇を押し当てられた。その唇が、次第に下に下がっていく。 なんとなくそれを見ながら、はた、と気が付いてしまう。よく考えたら、これはよろしくないのでは。 「あ、明日早いから寝なくちゃ」 離れようとすれば、ぐっと腰を引き寄せられ、呆気なく捕らわれの身となった。鏡ごしに、楽しそうな笑顔のランベールと目が合う。 「このまま押し倒される、と思いましたね?」 「思ってません。寝ます」 「突然の敬語は傷つきますね」 「四六時中敬語の人に言われたくないわよ」 と、言いながら足を蹴ると、わざとらしいうめき声をあげながらも、後ろに下がってくれる。 それでもまだ、諦めてはいないようで。振り向いて睨み付けるわたくしなんて、そよ風のようにそ知らぬ顔で言う。 「では口づけだけでも。お詫びに一つ」 「……しょうがないわね」 しぶしぶ、わたくしは目を閉じる。 まぁ、ね。 この男が、本当にそれだけで満足するなんて、思っていなかったけれどね!
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