3人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「あら。お早いお帰りねぇ?」
皮肉たっぷりにわたくしが言うと、ランベールは僅かに困った顔をした。下の階の料理を目にしたのだろう。
「それについては謝ります。すみません。ただいま戻りました」
「まぁ、無事に帰ったならいいでしょう。お帰りなさい」
ランベールはわたくしの言葉に微笑み、近づいてくると、わたくしの体を反転させた。またもや驚くわたくしの背中の傷を、なぞるように撫でる。
鏡ごしに顔色を窺うと、とても優しい瞳が見えた。それがくすぐったくて、少し笑う。
「気味悪がらないわよね、最初から。前世に受けた傷なんておかしなもの」
この傷のおかげで、わたくしは親に捨てられた。覚えているのは、忌々しそうにわたくしを見てた事だけ。
それなのに、ランベールは言ってくれる。前世の記憶があるなんて話も受け入れて。
「これもあなたの一部だと思えば、愛しいですよ」
そう言って、肩口に唇を押し当てられた。その唇が、次第に下に下がっていく。
なんとなくそれを見ながら、はた、と気が付いてしまう。よく考えたら、これはよろしくないのでは。
「あ、明日早いから寝なくちゃ」
離れようとすれば、ぐっと腰を引き寄せられ、呆気なく捕らわれの身となった。鏡ごしに、楽しそうな笑顔のランベールと目が合う。
「このまま押し倒される、と思いましたね?」
「思ってません。寝ます」
「突然の敬語は傷つきますね」
「四六時中敬語の人に言われたくないわよ」
と、言いながら足を蹴ると、わざとらしいうめき声をあげながらも、後ろに下がってくれる。
それでもまだ、諦めてはいないようで。振り向いて睨み付けるわたくしなんて、そよ風のようにそ知らぬ顔で言う。
「では口づけだけでも。お詫びに一つ」
「……しょうがないわね」
しぶしぶ、わたくしは目を閉じる。
まぁ、ね。
この男が、本当にそれだけで満足するなんて、思っていなかったけれどね!
最初のコメントを投稿しよう!