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朝日の眩しさに目を細めながら、わたくしは足取り重く、自らの執務棟へ辿り着いた。
大きな円柱の形をした建物で、天辺の丸屋根は星を見るため、硝子張りになっている。その棟の周りには、鳥籠の形をした温室が、三つ並んでいた。
そして、一人の少女が、執務棟の玄関前を箒で掃いている。彼女はわたくしの姿に気が付くと、パッと明るい表情を浮かべた。
「おはようございます、ベアトリス様!」
ああ。笑顔が眩しい。対する私は、どうだろうか。
「ええ、おはよう。アンヌ=マリー……」
「どうしたんですか?顔色が悪いみたいですけど」
「大丈夫よ。寝不足なの、気にしないで。お掃除ありがとう」
「はい!ありがとうございます!」
ぴょこん、と頭を下げる姿が可愛らしい。わたくしは彼女が明けてくれた扉を通り、室内へ足を踏み入れる。円形のホールに並ぶ三つの扉の内、真ん中の扉を開けた。
そこは主に事務仕事をする部屋で、壁際に書物がずらりと並ぶ。入って正面にわたくしの大きめの机と、その左側に3つの小さな机があり、男性が座っている。
彼らはわたくしの様子を見て、何かを悟ったのか、一斉に目を反らした。
触らぬ神に祟りなし、といったところかしらね。
「……アラン」
席に腰を下ろし、3人のうちの1人を呼びつける。彼は立ち上がると、きびきびとわたくしの元へやって来た。
茶色の髪を後ろへと撫でつけた、40代前半の男。彼らの中では、一番年が若い。
「はい、ベアトリス様」
「月蛇の卵、風龍の羽、蜥蜴の尻尾、月見草、鋸草、それから……」
「紫草の種、ですね?」
前置きもなくそう言ったわたくしの言葉を、アランは正確に理解してくれたようで、思わず微笑んでしまう。
「その通りよ。持ってきてちょうだい」
わたくしが言うと、アランはすばやく執務室を出て行った。
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