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アランを見送ったわたくしは、そのままだらりと机に上半身を投げ出す。
わたくしの元へやって来るお客様たちは、決してこんなわたくしを想像できないだろう。天使の微笑のベアトリスは、いつだって気品に溢れている。
それを作り上げたのはわたくしな訳だけれど。ここでくらいは、素の自分を晒しても、誰も何とも思わない。
「優秀ねぇ。わたくしの助手なんてもったいない。異動させてあげようかしら」
そんな事を呟けば、残る二人に苦笑されてしまった。
「お止めになった方がよろしいかと」
「あらどうして?」
「……それ聞きます?」
苦い顔で言われて、体を起こしながら、やれやれ、と首を振る。彼らの頭に思い浮かんだであろう人物を、間違いなく言い当てる事が出来た。
「年下を怖がるなんて、情けないのではなくて?」
「そうはおっしゃいますが、次期国王の右腕となられる方を敵にまわすなんて、とてもではないですが、遠慮したいですよ」
「でもねぇ」
「万が一代わりに、ここに若い男が来たらどうなると。もう二度とあんなのはごめんですぞ」
ふたりに口々に言われては、もう苦笑しか浮かばない。ランベールは、どれほど恐れられているのだろうか。
かつて若い男性がいた事があるけれど、彼はある日突然、もう無理です、と姿をくらました。それにランベールが関わっているとは聞いたけれど、誰も詳しくは教えてくれなかった。
とは言っても、察しがつくのが恐ろしい。あの男は、わたくしが誰かのものになるくらいなら殺す、と平気で言うくらいなのだから。
「もうランベールもそこまで馬鹿じゃないでしょうに」
「誰が馬鹿ですって?」
わたくしが言うと、そんな声がした。
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