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ランベールは、涼しい顔をして歩み寄って来て、机を挟んで正面に立つ。その姿に無性に腹が立ってしまうのは、致し方ない事だと思う。
どこかの誰かのせいで、わたくしはまったくやる気も出ないのに。
先ほどまで笑っていた二人がピタリと黙り、我々は空気です、とでも言うかのように、気配を消そうとしていた。この調子では、援護射撃など望めそうもない。
わたくしは腕を組み、ニコッと笑って見せる。
「あら、ごきげんよう、旦那様。何のご用ですの?」
「あなたに会いたくて」
「はいはい。何のご用ですの?」
「昨晩は愛しすぎてしまいましたので、様子を見に」
「ご心配なく。もう一度聞きますわね。何の、ご用、で、す、の?」
机を叩きながら一言ずつ区切って言うと、ランベールがふっと笑った。
「王太子殿下が喉が痛いとおっしゃっておりますので、薬をもらいに」
ほんと、この男は。妻をからかいたくてしょうがない病、なのかしら。
こんなのが侍従だとは、王太子殿下は大変ね。仕事が優秀なのはよい事なのだけれど。
「最初からそうおっしゃいなさい。後で持って行かせますわ」
「あなたが持ってきてくださいね」
「わたくし忙しいんですの。仕事が山積みなんですの」
本当はまったく急ぎでない書類の山を指しながら言うと、ランベールが首を傾げる。まるで、それが何か、と言っているように見えた。
「少しくらいよろしいでしょう?ついでに殿下を見ていただければ」
「まぁ!なんて人使いの荒い旦那様でしょう!」
「でも好きでしょう?」
「嫌いよ!」
そう叫んだ瞬間、関係の無い二人が肩をすぼめたのは気のせいかしら。
当のランベールはにっこりと笑って、机に両手をつくと、わたくしに顔を近づける。紺色の瞳が、やけに楽しそうに輝ていた。
「よろしいんですか、そんなこと言って」
「言うわよ」
これはまずい、と思わなくはないけれど。
いつも負けてばかりは、性に合わない。
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