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キッと睨みつけると、笑みを深めたランベールにさらに顔を近づけられる。
「な、何よ。吹っ飛ばすわよ」
すでに及び腰のわたくしの言い様に、ランベールがくすっと笑った。そして、わたくしの耳元に唇を寄せ……。
「あなたはそんな事しませんよ。ねぇ?」
そう囁いて、耳朶を舐められた。
「っ、何するのよ馬鹿!調子のらないで!」
わたくしは慌てて耳を押さえながら立ち上がり、そう叫ぶ。それでもランベールは、楽しそうに笑って続けた。
「好きでしょうに。昨夜だって喜んでいたでしょう」
「誤解を与える発言はやめて!」
「では詳しくお教えしましょうか?昨夜のあなたは……」
「分かったわよ!持って行くわよ!」
もういい加減にして、と言えば、ランベールは満足そうな表情を浮かべる。
あぁ。今日も負けてしまった。
「それではよろしくお願いいたします、ラ・リューヌ」
「……かしこまりましたわ、殿下の侍従のお方」
丁寧に頭を下げて去って行くランベールを、わたくしはそう言って見送る。彼が立ち去ると、安堵のため息が聞こえた。
「天使の微笑みのベアトリス様も、旦那様の前には形無しですね」
そんな言葉が聞こえて、わたくしは微笑みを浮かべながら、発言者に視線を向ける。向けられた方は、しまったという顔をしたけれど、もう遅い。
「あらフィルマン。今日はわたくしの分の仕事もしたい、ですって?いいわ。させてあげてよ。それではこれをよろしくて?」
「いえ、あの……」
「上司思いの部下を持って、わたくしは幸せですわ。あなたもそう思わない、アドルフ?」
「……時々、本当に年下なのか疑いたくなりますな」
「あら、アドルフ。あなたも欲しいって?」
「いえいえ。ご勘弁を」
苦笑いして業務に入る二人を置いて、書架の方へ向かう。殿下の薬を作って持っていく、という仕事が増えてしまったけれど、急な仕事が入るのはいつもの事。
もうすぐ、アランに頼んだ材料も揃うだろう。朝からランベールにはかき回されてしまったけれど、今日もわたくしの業務が始まるわ。
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