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ある日、ちょっとした仕事から戻ったわたくしは、お客様が来ているとアンヌ=マリーに言われ、そのまま小広間へ向かった。 大抵、わたくしの元へ来る依頼人とは、ここで応対する。落ち着いてもらえるよう、爽やかな淡緑色の壁紙に、優しい色合いの家具を配置してあった。 そんな部屋の中央、ゆったりとしたソファに、まるで森をそのまま映したかのような、深緑の髪と瞳をした男性が座っている。 深紅の騎士服が彼のトレードマークでもあるけれど、そのがっしりとした体形から、熊のような男、と言った方が通じ易い。 わたくしの学院時代の同級生でもあり、魔剣に選ばれたが故に異例の早さで騎士団長となった哀れな……、いえ、優秀な人。 「あら、騎士団長ギヌメール閣下ではございませんか。ごきげん麗しゅうございます」 優雅に頭を下げてみせ顔をあげると、とてつもなく嫌そうな顔をしていた。 そしてその表情と同じように、苦々しい口調で言う。 「……いつも通りセズでいい。それに、お前にそんな丁寧に対応されると、こう、ぞわっとして気味悪い」 そんな事を言って怖そうに体を縮め、両腕を擦る。わたくしとしては、その方が似合わなすぎて気味が悪いのだけど。 「失礼な方ですこと」 ため息を吐きながら向かいのソファに座れば、すぐにアンヌ=マリーが近寄ってくる。 「ベアトリス様。お茶はいかがいたします?」 「そうね。香草茶でいいわ。わたくしのは少しカモミールを多めに、彼のは薄荷を多めにお願い」 「はい!」 元気な笑顔で頷き出て行く後ろ姿を見送っていると、セズがぼそっと呟いた。 おそらく、わざと。聞こえるように。 「素直な助手がいるくせになぁ」 「何か?」 「何でもねぇ。で、ここに来た理由なんだが」 お茶が来るのも待てないなんて、せっかちな人。世間話をする、というゆとりも持てないのかしらね。 もしこれがランベールなら、ゆっくり世間話をして、帰り際に思い出したように、面倒事を口にするに決まっている。 とはいえ、このざっくばらんな男も、わたくしにとって、喜んで招きたい客、というわけでもない。
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