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「冬馬……お前最近変わったよな」
隣のベンチに寝転んでいる冬馬を見て言った。
大きな目をした、少し童顔のイケメンがこちらに振り向く。
「やっぱり、分かるか?」
冬馬はニヤける顔を隠すように、バーベルを持ち上げた。
僕も同じくバーベルを持ち上げるが、冬馬が付けている重りと比べたら本当に少量だ。
それでも僕にとっては重たくて顔が鬼瓦のようになってしまう。
数回持ち上げただけで息が上がり、早々に休憩に入った。
スポーツ飲料を持つ手が震える。
一方の冬馬は、僕の二倍くらいの回数をこなし、清々しい笑顔でやってきた。
「やっぱり筋トレは気持ちいいなぁ! この苦しさのあと、筋肉が震えてみなぎってきているようだ!!」
冬馬は上腕二頭筋を褒めるように撫でた。
ここはジムだ。
筋肉フェチの変態。自らの体に鞭打って筋肉を鍛え、その苦痛に喜ぶ一人SM。他人の筋肉を褒め合う、自慢し合う。
これらは平常運転で居る、だから冬馬のその部分が変わったと言ってるわけではない。
「お前最近、女の子にちょっかい出さなくなっただろ?」
「あぁーあれか。」
冬馬も隣に腰掛け、スポーツ飲料をガブガブと豪快に流し込んだ。
冬馬は根っからの女好きで、部署の垣根を超えて口説いていた。
一日に一度は必ず壁ドン、床ドン、天ドンしている所を目撃していた。
しかしここ最近……そういえばジムに通い始めてからは、そう言った現場を見なくなった。
こっちとしては、別の部署にいる彼女・美香に手を出される心配がなくなって、ほっとしているのだが……
「実はな、この前壁ドンした時、壁抜いちまったんだよ。資料室の……」
「あれ、お前の仕業だったのか。」
何週間か前に会社で騒ぎになっていたが、まさかコイツだったとは……
しかし、壁をぶち抜くとか、どんな筋肉量してるんだ。
「名字なんだったっけ……まぁ、いいや。広報部の美香ちゃんて子に壁ドンしたんだけどさ」
「お前、人の彼女に何やってんの?」
当たり前のように出てきた彼女の名前に、一瞬惚けた顔をしてから言った。
冬馬は驚いた表情で続ける。
「えっそうだったのか!? 」
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