壁ドンしたら……

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「まぁともかく、その時の俺は筋トレ始めて一週間たち、バッキバキだったわけさ。んで、いつも通り壁ドンしたら、手の周りの壁が丸く切り抜かれて隣の部屋まで貫通して、飛んでった型抜き壁が隣の部屋の更に隣の部屋まで突っ込んでったんだ。」 冬馬は自らの左腕を、急に必殺技使えた主人公のような顔で見ている。 「いや、お前何?ハルク?」 何処からが捏造なのか分からない。 「それだけじゃないんだ。俺が壁ドンした風圧で、美香ちゃんが反対の壁に吹っ飛ばされて頭打ってた。」 ……え? 「美香がおかしくなったのお前の仕業かあぁぁあああ!!!!」 美香はあの頃おでこに絆創膏を貼っていたのだが、その頃からずっと「私はパラレルワールドからやってきた、世界を救うために来た賢者だ。」「妥当魔王!取り戻せ福神漬け!!」と訳わからないことを言うようになり、退職の危機に陥っている。 「すまんすまん」 この男は軽い様子で言う。 「何度も言うけど……本当お前、人の彼女に何してくれてんの? ていうか、そんなんなら鍛えるのやめろよ。」 「いや、それは出来ない……見よ!この筋肉の美しさ!」 冬馬の体は鍛えすぎて、14キロの砂糖水を飲んだ某主人公のようになっている。 最早人間から生まれた筋肉ダルマではなく、筋肉が人間の形を成したようなもんだ。頭も含めて。 「俺はモテる為に鍛え始めた、それがどうだ!!こんなにも筋肉が素晴らしいなんて!!!モテることを捨てるか、筋肉を捨てるか、考える余地もない!!!捨てるのはモテることだ!!!」 こいつはもう手遅れのようだ。 「そして人の筋肉も素晴らしい……特に男!!美しき肉体美だ!!!胸がドキドキする……今まで女の子を口説いていた時とはレベルが違う!!」 冬馬はよだれを垂らしながら語る。 僕はもうなにも言う気が起きず、呆れ顔でその様を見ていた。 「まぁ、他人に迷惑かけないならいいんじゃないかな……」 「あぁ、もちろんそのつもりだ。」 冬馬はニコリと微笑んでと答えた。 これ以上付き合えない……もうジムに来るのやめよう。 せっかくだから最後にランニングマシンにでも行くか……と歩き出した時、急に冬馬が目の前に立ちふさいだ。 「ところでお前……良い筋肉になったよな」 冬馬が僕の顔の隣に手の平を向けた途端、眩い光に包まれたかと思うと、後ろの壁が吹っ飛んでいき、周りが瓦礫の山と化していた。
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