1979

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1979

 9月9日 『壁』って呼ばれていた少年が朱雀町郊外にある雑木林で首を吊った。     11月6日  わずかに車のエンジン音がしている。  視界が最大120メートルという濃霧だ。  ズズン!という爆発音が聞こえた。 300メートルは離れているだろう。  優香里は身を低くして回りをキョロキョロする。  深夜の蛇骨村、田園がどこまでも広がる。  ドンッ!ドゴォォン!!再び爆発音がした。  川沿いの民家から煙が立ち上っている。  川を挟み、男たちが銃撃戦を繰り広げている。  河原には3体の死体が転がっている。  札幌や大阪で強盗を繰り返した連中だ。  こっち側の岸に2人、向こう側には4人。  どちらが優勢かは赤ん坊でも分かる。  優香里は雑木林の中から銃撃戦を見ていた。  こちら側にいる深紅のコートを纏った男が銃弾をかわし、2丁拳銃をぶっ放している。 「波多野さん!ここは俺にお任せを」  小太りのオタクっぽい男がバズーカを構えた。  男は1月に発生した六星銀行強盗殺人事件の生き残りだ。銀行マンだったが、強盗犯桜山に耳をそぎおとされ気が狂ってしまった。  桜山は警官隊に射殺されたが、男の恋人が桜山に刺し殺されている。  ドゴォォォォォォン!!    11月8日  黄昏の鳳凰市に優香里はいた。  テクテク歩く。キーコーヒーの鍵の形をしたネオンが滲んでいる。ハードボイルドな風情を醸し出している。  猥雑なストリートに入る。  コジャレたバーや中華屋が並ぶ。  運河沿いにスナックが無数に入ったアパートが聳え立っている。ネオンが見えた。  優香里は《ボルテージ》ってクラブに入った。  山口百恵の『美・サイレント』が微かに流れている。 《Be silent.Be silent   Be silent.Be silent あなたの○○○○が欲しいのです  燃えてる××××が好きだから》  入口近くにあるプライベートルームに入った。  マネージャーが勘定をしていた。  彼は副業で探偵をしている。  「波多野の正体は分からないが、奴と敵対してた奴らなら分かった。4人とも竜神会の奴だった」  田島秀明・中西進之介・坂元智明・萩野学。  4人とも死んだ。  探偵は9月に自殺した少年の兄だ。 「俺はあまり先が長くない、肺癌らしい。あの世に行く前に復讐を果たしたい」 「手伝ってあげてもいいわよ?」  所沢にある完成したばかりの西武球場の近くで真島って不良少年がいたのでアイスピックを首筋に突き刺して殺した。
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