あの夏

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一瞬彰也とみかわし、おずおずと頷いた。 「けんちゃんに話して、けんちゃんが離れていくのが怖かった。けんちゃんは優しいから、自分の事を邪魔者だと思って去っていっちゃわないか心配だった」 「俺も、話したらもう賢悟と遊べなくなってしまうんじゃないかって思って、怖くなったんだ。賢悟悪かった」 「そっか」  そう呟いて賢悟はにっこりと笑った。 「もしかしたら二人はぼくのこと、いらなくなっちゃったのかもってちょっと思っちゃったんだ。だけど、今日二人に会えてそれは誤解だったことがわかってよかった。  いいよ、二人とも許してあげる。そのかわり…」  賢悟は彰也に歩み寄り服の裾を握った。 「かなちゃんを守ってよ」  彰也は驚いて賢悟を見つめる。 「俺もあの日に死んじゃっただろ。どうやって守るんだよ」  賢悟はふるふると頭を振った。 「しょうちゃんはまだ死んでいないよ。だからこそぼくみたいにこの神社に縛り付けられなかったし、成長した姿で現れることができるんだよ。 しょうちゃんはずっと、病院で意識を取り戻さないまま寝たきりなんだよ。でも、もう大丈夫。かくれんぼは終わったから、すぐに目を覚ますよ」  彰也は信じられないといった顔をしたが、賢悟はにっと笑い、「しょうちゃんは死んでないよ」と繰り返した。それからくるりと香奈に向きなおり、そっと私の手に自分の手を重ねた。 「かくれんぼを終わらせてくれてありがとう、かなちゃん。しょうちゃんと、幸せになってね」  賢悟はとびきりの笑顔を見せてから、光となって消えた。 「…賢悟を信じてみるよ」  賢悟が消えた後をしばらく見つめていた彰也は香奈の方を向き、そう言ってぎこちなく笑った。香奈が頷き返すと、彰也もふっと消えてしまった。その途端景色が大きく歪み、地震に襲われたみたいに揺らいだ。揺れが収まり辺りを見回すと、そこは見なれた自分の部屋だった。 あれは全て夢だったのだろうか。けれど、手には賢悟の温もりが、耳には彰也の声がまだ残っていた。 ―――あの場所に行こう  ふっと思った。悲しみと罪悪感から楽しかった思い出までもあの場所に捨ててきてしまったけど、もう一度拾い集めてこよう。そしてきっと、あの場所でしょうちゃんに会えるだろう。なぜだか香奈は、そう確信していた。 「ありがとう、けんちゃん。必ず会いに行くね、しょうちゃん」
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