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回もここに隠れているかもしれないと思い、社の裏へ向かった。すると案の定、看板のはしからチラリと服の裾が見えた。私は近づいて名前を呼ぼうとした。しかしふと思いとどまり、くるりとまわれ右をしてその場から立ち去った。
はっとして起き上がる。全身にびっしょりと汗をかいていた。はあはあと肩で息をする。ベッドの隅に置いた時計の方へ目を向けると、時計の針はお昼の十二時を少し過ぎたところを指していた。
―――夏休みでよかった
苦笑しつつカーテンを開ける。開けたとたん真夏の強い日差しが部屋に差し込んだ。
―――またあの夢を見てしまった
しかも何やら話が進んでいた。なぜだかわからないが夢の先を見たくなかった。この先に何が待っているのか分からないのだが、見るのがとても怖い。
―――もう、なんなの
なんで夢ごときにこんなに振り回されなきゃいけないんだ。得体の知れない不安に苛立ちながら着替えをすませ、キッチンに向かった。
食パンにバターを塗ってトースターにぶちこむと、水菜とトマトをさっと水で洗う。トマトは八つに切り分け皿に並べ、水菜もざくざく切ると皿の中央に盛った。その上からシーザードレッシングをかけ、机に運ぶ。それからヤカンに水をいれて沸かし、マグカップにインスタントコーヒーを入れると、沸いたお湯を注ぎこんだ。高いものではないが香りは良い。
焼けたトーストとコーヒーを机に並べ、手を合わせ「いただきます」と小声で言うと、トーストを齧りながらテレビをつけた。
テレビで流れるお昼のワイドショーを見るともなしに眺めながら、さっき見た夢を思い返した。
―――なんか見たことあるんだよな、あの神社
そうは思うのだが、思い出そうとすると頭に霞がかかっているようではっきりしない。
―――うーん、なんなんだろう
悩んでいると、テレビの中で先日起きた少年の転落事故の話題になっていた。と、唐突にある場面が思い浮かんだ。
崖の下で横たわる小さな体。後ろでは大人たちが言葉もなくその光景を見つめている。
その光景を引き金に、今まで封じ込めてきた記憶がいっきに溢れだした。頭がガンガンと痛み吐き気がした。たまらず頭を膝に抱え込む。忘れようとしたあの時の記憶が襲いかかってくる。あの日あの場所で捨てたはずの記憶の渦に、巻き込まれていった。
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