あの夏

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気がつくと日は山に隠れ、いつの間にか空は藍色に染まっていた。二人きりの時間が終わってしまうのを惜しみながら、香奈は彰也と肩を並べて石段を降りた。もう二度と彰也と二人だけで遊べる日は来ないかもしれない。そう思った途端、口をついてでてしまっていた。 「しょうちゃん、好きだよ」  彰也は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情をもどしこくりと頷いた。 「俺も」  その後どうやって帰ったのか覚えていない。とにかく嬉しくてどうしようもなかった。そして、明日もしょうちゃんと二人だけで遊べたらいいのにと思ってしまった。 「あの日、お昼には熱も下がって体調もよくなっていたんだけど、お母さんが心配するからしばらく寝ていたんだ。でも二人と遊びたくて家を抜け出した。二人ならきっといつもの神社で遊んでるだろうって思って、そのまま神社に向かった。そして神社に近づいた時、かなちゃんがしょうちゃんに告白するのを聞いたんだ。 それを聞いてからぼくは、二人がぼくから離れていくんじゃないかって怖くなったんだ。あの日も、あのまま二人でどこかへ行っちゃうんじゃないかって、焦ったんだ。それで、立ちあがって『こっちだよ』って叫ぼうとしたら、足を踏み外して落ちちゃったんだ」 賢悟は私と彰也を交互に見てから深くため息をついた。 「言ってくれれば良かったのに。かなちゃんもしょうちゃんも、何も言ってくれないからすごく不安で、二人に裏切られたようで悲しかった」  言葉もなく賢悟を見つめる。賢悟の瞳には怒りでも恨みでもなく、悲しさだけが宿っていた。 「けんちゃん…」  つーっと一筋涙が零れ落ちた。どんなに悲しかっただろうか。どんなに淋しかっただろうか。それでも私達を恨むでもなくただ一人悲しみと孤独を抱え込んでいた賢悟を思うと、涙が後から後から溢れてきた。 「けんちゃん、黙っててごめんなさい」  謝っても謝り切れない。それでも必死に謝り続けた。彰也も苦痛で歪んだような表情で謝った。 賢悟はしばらく表情のない顔で謝り続く私達を見ていたが、ふいにいつものほっとするような笑みを見せた。 「もういいよ二人とも。本当は二人がぼくに話さなかった理由を知っているから。  壊したくなかったんでしょ、三人の関係を」
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