出会い

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 次の日から山本は捨てられた傘たちを集めて回った。  家から大学までには5つの駅があったので、まずは1つ1つの駅で降りては忘れられた傘がないか、処分の対象になっている傘はないかを聞いて回った。  各駅ともそのような傘は大変多く、好きなだけ持っていかせてくれた。  わずか数日で200本近くの傘がアパートに集まった。  彼の住んでいるアパートはいわゆる2DKという造りで、一部屋はその傘の置き場所になった。  彼はブルーシートを買って一部屋に敷き、集めてきた傘をそこ部屋へ移して、来る日も来る日もその傘たちを1本1本拭いていった。  ほとんどがビニール傘で、中にはたいそう立派な傘も混じっていたが、それぞれの傘にそれぞれの持ち主がいたはずで、それでも各駅に忘れられたことを思うと1本1本に不思議と同情に近い愛着が湧いた。  1週間ほどで全ての傘を拭き終えると、彼は久しぶりに大学へ出向いた。  彼の通う大学では3月に行われる卒業生を送り出すイベント、お別れコンパが企画されており、それを企画する実行委員のメンバーが集まって、日々会議をしていた。  山本は4年生であったが、そういった活動には全く興味がなかったので、いつも実行委員室の前を通り過ぎるばかりだった。  彼は4年間で初めて、その扉をたたいた。
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