550人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとつだけあるドアは外から施錠されている。開くだろうかと思って、ドアに近づいて金属製のドアノブをまわしたが、氷のような冷たさに驚いて、つい手を引っ込めてしまった。
誰か来て、と声を上げてドアを叩いても、誰も来てくれない。
恐怖と寒さが絡み合いながらミズキを支配していた。
「パパ……ママ……」
部屋の隅で膝を抱いて座り、震える声で両親を呼ぶ。
「ぼく………ここにいるよ………パパ、ママ……。ぼくのところにきて………」
それは昨日の夜だった。
家の中で積み木遊びをしていたら、急に電気が消えた。
停電と思う間もなく、ガラスが割れる音、そして家の中にたくさんの人間がなだれ込んできた。それは瞬間的で、ミズキは驚き、積み木を持ったまま暗闇の中で動けずにいた。
家具や調度品が壊れる音に混じって母親の悲鳴が、そして父親が「逃げろ」と叫んでいたのは覚えている。
暗闇の中でどうしていいかわからず、驚愕と恐怖に混乱していると、ひょいと身体が荷物のように担ぎ上げられた。
「やだぁっ! はなして!」
泣き喚きながら足をばたばたさせて必死に抵抗をしてみたが、所詮は五歳児の抵抗に過ぎない。
「離して、離してよぅ! パパ! ママ! 助けて!」
外に出された時、あたりは暗かった。目を凝らしても何も見えないのに、さらに袋のようなものを被せられた。
苦しくて、しかもなんだか獣のような臭いが耐えられなくて、袋を取ろうとすると、「取ってはいけない」と、頬を張られ、袋をまた被せられる。
そして、着いたところがこのコンクリートの部屋だった。
「パパママと大事な話がある。おまえはここで待っていなさい」
ひとり部屋に放り込まれ、時間だけが過ぎてゆく。父親と母親がどうなったかなんて知らない。
ただ急に大好きな両親と引き離されて、何も出来ないまま。
「パパ……ママ……。うっ、くっ……」
会いたい。父親と母親に会いたい。
今日はミズキの誕生日だというのに、こんな暗くて淋しい場所でたったひとりにされているなんて。
最初のコメントを投稿しよう!