プロローグ

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 ひとつだけあるドアは外から施錠されている。開くだろうかと思って、ドアに近づいて金属製のドアノブをまわしたが、氷のような冷たさに驚いて、つい手を引っ込めてしまった。  誰か来て、と声を上げてドアを叩いても、誰も来てくれない。  恐怖と寒さが絡み合いながらミズキを支配していた。 「パパ……ママ……」  部屋の隅で膝を抱いて座り、震える声で両親を呼ぶ。 「ぼく………ここにいるよ………パパ、ママ……。ぼくのところにきて………」  それは昨日の夜だった。  家の中で積み木遊びをしていたら、急に電気が消えた。  停電と思う間もなく、ガラスが割れる音、そして家の中にたくさんの人間がなだれ込んできた。それは瞬間的で、ミズキは驚き、積み木を持ったまま暗闇の中で動けずにいた。  家具や調度品が壊れる音に混じって母親の悲鳴が、そして父親が「逃げろ」と叫んでいたのは覚えている。  暗闇の中でどうしていいかわからず、驚愕と恐怖に混乱していると、ひょいと身体が荷物のように担ぎ上げられた。 「やだぁっ! はなして!」 泣き喚きながら足をばたばたさせて必死に抵抗をしてみたが、所詮は五歳児の抵抗に過ぎない。 「離して、離してよぅ! パパ! ママ! 助けて!」    外に出された時、あたりは暗かった。目を凝らしても何も見えないのに、さらに袋のようなものを被せられた。  苦しくて、しかもなんだか獣のような臭いが耐えられなくて、袋を取ろうとすると、「取ってはいけない」と、頬を張られ、袋をまた被せられる。  そして、着いたところがこのコンクリートの部屋だった。 「パパママと大事な話がある。おまえはここで待っていなさい」  ひとり部屋に放り込まれ、時間だけが過ぎてゆく。父親と母親がどうなったかなんて知らない。  ただ急に大好きな両親と引き離されて、何も出来ないまま。 「パパ……ママ……。うっ、くっ……」  会いたい。父親と母親に会いたい。  今日はミズキの誕生日だというのに、こんな暗くて淋しい場所でたったひとりにされているなんて。
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