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両親のぬくもりを恋しがって啜り泣いていると、部屋のドアが開き、モスグリーンのロングコートを着た男が入ってきた。
誰かが僕を迎えに来てくれた。
(へいたいさんだ……)
母親からは「パパのお仕事の写真なんだから、絶対に見てはだめよ」と言われていた。父親が何の仕事をしているかなんて知らなかったが、他国へ出かけることが多く、そこで撮ったという写真をこっそり見たことがある。
コンクリート製の大きな建物、戦車や飛行機、勇壮で格好いい兵士の写真を見るのが好きだった。
その写真の中に、この兵士と同じ服装をした兵士や施設が写っていたのを覚えている。
そう、その兵装は隣国・ディスタンシアの兵士の冬の装備だ。
それをゆるゆると目で追っていると、男はミズキのそばで足を止めた。
腰から拳銃を取り出し、銃口をミズキに向ける。
「立て」
銃が自分を向いているなんて、怖くてたまらない。
撃たれたら死んでしまう。
「立ちなさい」
寒さも手伝ってガチガチ震えていると、男はもう一度ミズキに命令した。
意を決してその場にゆっくりと立ち上がる。
命の危険を察知し、心臓が早鐘を打つ。
寒さ以上に本能的な恐怖に身体が小さくなる。
「ミズキ・ブランケンハイム」
「……」
名前を呼ばれたもの、喉が張り付いて声が出せない。怯えた子猫のようにミズキが身体を震わせていると、男は銃の撃鉄を下げた。
シリンダーが回るのをみて、ミズキはさらに縮こまる。
「呼ばれたら返事をしなさい」
「は、はい……」
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