550人が本棚に入れています
本棚に追加
狙撃カウントの最後、トリガーを引くその瞬間だった。
吹雪が一瞬やみ、背を向けていた予定外の兵士が振り返った。
その人物は、ミズキをまっすぐ見据えてニヤリと笑った。
――気付かれている?
思わずぎょっとしてスコープから目を離す。
しかしここはターゲットから五〇〇メートル離れていて、天候は吹雪。スコープや双眼鏡越しならともかく、普通の人間がミズキの居場所を特定できるほどの視認性はないはずだ。
――これは偶然だ。
スナイパーライフルを再度構えなおす。
だが兵士はミズキをスコープごと貫くような視線で見つめていた。薄い雪のスクリーンに佇むその兵士から目を離せない。
(本当に見えているのか……いや、そんなはず、絶対にない)
装備も武器も何もかもきちんと選んだのだ。
綿密な計画を立て、正確な観測だってグスタフが行っている。しかし隣のグスタフはあの兵士の動きについて何も反応しない。
もしかして、あの兵士が見えているのはミズキだけなのかと不安になる。
兵士はこちらを見据えたまま、酷薄な笑みを浮かべている。
まるで「おまえたちが狙っている事はすべてお見通しだ」とでも言いたげに。
(その取り澄ました顔、今に血に染めてやる!)
最初のコメントを投稿しよう!