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相手の挑戦的な表情に心がざわめく。しかし狙撃手が動揺してはいけない。作戦の失敗は、自らの死。
吸った息をゆっくり吐く。
自らの呼吸ですら狂う照準、冷たく滑らかなカーブのトリガーに指を掛け直す。
パズルの最後のひとかけらを嵌めるその瞬間。
ミズキの後頭部に硬く冷たい感触が押し当てられた。
「動くな」
「――!」
まずい。
ミズキは反射的に振り向こうとしたが、相手はそれを見越していた。武器を取り上げられ、相手にそのまま両腕を拘束される。冷たい雪の地面に頭を押し付けられ、いくつもの銃口がぴたりとミズキに狙いを定めた。
視線を素早く周囲に走らせると、ミズキを拘束しているのはオーバーコートを着ている兵士達だった。
そのコートの色がダークグレーなのを見て、ミズキはチッと舌打ちを零した。
(クラリスの特殊部隊だ……)
よりによって、クラリス軍の中でも特に残酷さを極める精鋭部隊たちに捕らえられてしまった。
時には拷問で、時には国で待つ大切な人をちらつかせながら、矜持と情報を売るように仕向けることに長けた連中だ。
また人知れず暗殺なども行うという噂もある。
ここに来るまでに隠密行動を心がけた。排泄物に至るまで、自身の痕跡を残さぬように細心の注意を払ってきたのに、敵にいつの間にか囲まれていたなんて。
ミズキだけでなく、観測手であるグスタフも気付けなかった。
自分の近くまで来た敵の動きを微塵も察知できなかった狙撃手なんてこの世にいない。
ミズキは心の中で自嘲する。
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