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「僕たちが狙っているのが見えたのか」
「いいや、君たちは最初からここに誘い込まれる手筈だった」
「――なに?」
低く威圧感を含むその声の主は、先ほどスコープで見た予想外の兵士だ。あの場所から移動してきたのだろう。降りしきる雪の中、さくさくと新雪を踏みながら歩いてくるその姿は凛とした美しさと畏怖を備えていた。
そこらへんの奴らとは違う、この男は容赦などしない危険な人物だと、本能的に感じる。
よく磨き込まれた軍靴が地面に這い蹲らされているミズキの前で足を止めた。
彼は膝をつき、優美な指先でミズキの華奢な顎をそっと撫でた。
「我が軍を混乱に陥れた狙撃手というから、どんなに屈強な男かと思っていたら……これはまた少女のように可憐な兵士だ」
「くっ…」
得体の知れない気味悪さに全身から血の気が引く。
「僕達を……どうする」
「僕達? ああ、あなた状況がわかっていないのですね?」
無造作に髪を掴まれ、そのまま強引に上を向かされる。
その男は黒髪を綺麗に撫で付け、細いフレームの眼鏡をかけていた。そのガラスの向こうの涼しげな双眸が冬の冷気など比較にならない冷厳さを湛えている。
「あなたはパートナーに裏切られたのですよ」
「どういう……ことだ……?」
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