♯2 拘束

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「違う、僕はそんなんじゃ……」 「カラーコンタクトで隠してもわかりますよ」  ミハイルがミズキの後頭部に手刀を落とす。 「ぐうっ!」  不意にきた衝撃をそのまま受けてしまい、思わすうめき声が漏れ、同時に左側の視界がクリアになった。  クラリス人になりすます為のコンタクトレンズはちょっとした衝撃でよく外れるが、その加減など相手が考慮してくれるわけもなく、殴られた痛みと衝撃にミズキは軽い眩暈を覚えていた。 「……うまく化けたと思ったんだけどな」 「もともとあなたが持つ美しい黒い瞳はどんなにマスキングしたって隠せない。私は以前、あなたとお会いしているが、覚えていませんか?」  以前に会ってる? そんなはずはない。ミッション中は誰とも会わずに帰ってきているはずだし、ミハイルみたいな相手に会っていたら、絶対に覚えている。  隠密行動を旨とする暗殺者たるもの、たとえ街を歩く一市民が相手でも、自分の存在を覚えられては困るのだ。 「……悪いけど、僕の記憶にはない。あなたなんか知らない」 「あなたの左目に蒼いコンタクトをつけて化けても、その黒い瞳とあいまった深海のごとく深い蒼の瞳はクラリス人にはいない。右は間違いなくクラリス特有の蒼ですが、左は違う」  口調こそ慇懃だが、その態度は無礼だ。捕まれる髪の痛さに、ミズキは顔を顰めてミハイルを真っ向から睨みつけた。 「くっ……」 「あなたは覚えていなくても、私はあなたのそのきれいな瞳を忘れたことはない。1日たりとも」 「なんだそれ…」  いくつもの銃口が自分に向いている。抵抗したところで蜂の巣にされるが落ちに決まっている。  万事休す。もはやどうする事も出来ない。ミズキは悔しさに唇を噛んだ。 「……こうして捕まったのだから抵抗はしない」  悔しくて、そして。     
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