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大切な人を失う悲しみは誰だって同じだ。敵も味方も、国の違いなんかも関係ない。
だが、ミズキの放ったその凶弾が、この黒衣の死神を本気にさせる程度には、被害は大きかったのだろう。
「僕をどうする。今ここでおまえらの同胞の敵をとるならさっさと殺せよ」
「クラリスの血が流れているあなたは、いわば国家反逆罪に等しい大罪人。そんなあなたを簡単に殺すとお思いか?」
「なに……?」
「こんなところで話していては風邪をひいてしまいます。場所を変えましょうか。さあ」
「ぐっ……」
髪を鷲掴みにされたまま、立てとばかりに上に引っ張り上げられる。ミズキは痛みに顔を顰めながら立ち上がった。
「あっ」
後ろ手に拘束されているおかげでバランスを崩しかける。それを受け止めたのは雪ではなく、ミハイルだ。
「今年は特に雪が深い。足元にご注意いただかないと」
「ディスタンシアでもこの程度の雪は降る。僕はちゃんと歩ける。女みたいに扱うのはやめてもらおう」
「それは失礼。しかしクラリスにとってあなたは大きな収穫だ。異色光彩の狙撃手を確保できたのですから」
「……どうせすぐ、殺すくせに?」
「さあそれはどうでしょう。まずは営倉にご案内します。お話はそこでじっくり伺う」
「営倉か。最高級のスイートルームを希望するよ」
「いいでしょう。あなたに最高級のおもてなしを約束します。あなたが這い蹲って我々の靴先を舐め、心の底から殺してくださいと言えるようになるくらいのおもてなしを、ね」
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