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――――……。
「さあ――永遠に眠れ、破滅の姫よ」
寝台の上で眠っている女の頬を撫でる男がそう言った。
眠っている女――眠っていても、とても美しい。
「あなた様はこの世に存在してはいけぬモノ――しかし、殺してはならぬモノ」
頬を撫でた腕の逆の腕に持っていたナイフ――それを突き刺そうとしていた男は。
だが、それだけはどうしても出来ないことであることを、再度思い知らされ。
「その命が、その姿が、その存在が――永遠に終わらぬことを」
そのナイフを、男は自身の喉に突き刺した。
突き刺した喉から大量の血が流れ出る。
生き物にとっては必要不可欠である行動『呼吸』が自身に血によって出来ない。
そのままでは男はいずれ死ぬ――男はそれで良かった。
自分さえ死ねば、この場所に女が……お姫さまがいることを知る者はこの世に存在しなくなるから。
居場所を知る者がいなくなれば、このお姫さまを眠りから起こそうとする者はいなくなるから。
その永遠なる眠りを、妨げる者は存在しないのだから……。
男はそれを確信し、断末魔のごとく、最後の大笑いをした。
その笑い声ははるか遠くの国にまで聞こえるほどまで。
そして男は死んだ――最後まで笑みを浮かべて。
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