生誕

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生誕

世界はとても美しかった。 空を仰げば突き抜けるような無限の蒼が見える。 何処までも続く蒼から暖かい陽が地上の全てを照らし、時にはその恵みを雨として地に降らせる。 その恵みを取りこぼすことなく受けた地は碧を瑞々しく芽吹かせ、やがてその碧は樹となり花となり、堅い地に深く根を下ろして土に磨かれた美しい水を吸い上げる。すると花は瑞々しく花開き、葉は一枚一枚が生気に満ちあふれ、朝露を弾く。やがて木々の枝には実が実り、生物が樹の基に集まる。 虫や鹿がその草を食み、鹿は狼や熊に食われ、虫や実は鳥に食われる。 鳥は啄んだ実の種を大地のあちこちへと飛び交い運び、碧を培う。 そして新たな大地に芽吹いた碧は土に根を張り、芽吹いて花を咲かせ、実を実らせ水を磨き土を肥やす。 そこに生命は集まり、虫が歯を食い、鳥が実を食い、循環して生まれては朽ち、そしてまた生まれていく。 その骨肉が土に還れば、そこに虫が沸き、土は肥える。そして水を磨く。 全ての生命が余りに美しく、尊い。そして正しく輪廻(まわ)っていた。 折り重なる木々はやがて森となり、森となった無数の木々が、朝露を吸い、一斉に雲を吐き、山霧として空から受けた恵みをまた空へと返す。     
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